環境省では、使用済太陽光パネルの効率的な回収、適切なリユース・リサイクルの推進を目指し、トレーサビリティを確保した情報プラットフォーム(以下、情報PF)の実証事業を令和3年度から3年間で実施しており、令和5年度の報告書が公開されています。
本トピックでは、令和5年度の実証事業で検証した内容について概要を紹介します。
本実証事業は、使用済PVモジュールの効率的な回収やリユース・リサイクルの促進を目的とし、トレーサビリティを確保した一体的な管理情報プラットフォーム実証として、以下の点を含んだ実証が行われています。
令和5年度は実証期間3年目として、前年度までに構築した情報PFを元に、これまでの得られた課題や社会実装(商用化)に向けた対応、リユース保険などの必要な仕組みの具体化がされています。
本実証事業では、令和3年度において情報PF構築に向けたマーケットの基礎的な調査や情報PFビジネスの活性化に向けた出口戦略が検討され、令和4年度においては実際の情報PFの試作や実用化に向けた課題整理が行われています。
これらの成果を基にして令和5年度では、実際の使用済PVモジュールのリユース・リサイクル取引きにおける検証、リユース可否判定方法の確立やリユースパネルへ保険を付保する有効性検証の検証等が実施されています。
実取引ベースでの情報 PF 実証実施
2,700枚程度の実取引ベースのPoC(概念実証)を実施されており、協議中段階の取引きについても合計で20,000枚以上、参画企業35社と報告されています。
情報PFを利用した実際の取引きでの検証により、以下の結果が確認されたと報告されています。
リサイクル機能の拡充
前年度までの検証にて、リユースとのワンストップサービス化による排出者のメリットが確認されていますが、リサイクルを加速させるための機能・サービス向上がなされています。
使用済PVモジュールの排出時において汎用性が高いと考えられる機能が実装されていますが、取引時の個別性が高い業務(見積りや物流手配)や既存のシステムとの連携(契約、JWNET連携)などは、ニーズが確認できなかったため、開発項目としては取り上げられていないと報告されています。
リユース可否判定方法の確立
使用済PVモジュールのリユースでは、基本的な買取り可否が判断された後に外観・性能検査が行われており、一連のプロセスのスピード感の改善や、情報PFによる検査データの運用が検証されています。
リユース保険付保の有効性検証
本事業を実施した丸紅株式会社と損害保険ジャパン株式会社はリユースPVモジュールへの瑕疵担保保険付保スキーム(※注)を組成しており、情報PF上で保険適用に係る運用に関する検証が行われています。
リユース保険の有効性を今後高めていくには、保険期間の長期化、検査工程の低コスト化、代替PVモジュールの調達などの課題があげられています。
※2022年11月に保険適用サービス開始後、2024年2月時点で保険適用事例は無し(引用元:メガソーラービジネス)
情報PFの機能の概要、有効性評価および事業拡張性
情報PFの完成版の開発に際して検討したシステムの各種要件定義や実際のUI(ユーザーインターフェイス)、PFを活用した場合の有効性評価などが、情報PFの商用化を報告されています
また本情報PFを活用し、使用済PVモジュールのりリユース・リサイクル事業の更なる拡張案が提示されています。
情報PFを活用した際の環境改善効果、およびCO2排出量削減効果
情報PFを通じて、PVモジュールのリユース取引およびリサイクル事業者への紹介を行った場合について、CO2排出量と最終処分量の削減効果が算出されています。
また情報PF上で、これらCO2排出削減効果が可視化できるイメージの紹介がされています。
本実証事業で国内の使用済PVモジュールを一元管理するシステムが確立され、他再エネ設備廃棄物へのシステムの横展開や太陽光発電に関わる業界連携が見込まれると報告されています。
経済性を確保した資源循環経済と市場創出が期待できるとされており、事業の更なる活性化および出口戦略に関しても検討されています。
新会社におけるリユース・リサイクル事業の開始
本事業を実施した丸紅株式会社では、新会社「リクシア株式会社」を設立し、情報PFの実証と並行して使用済PVモジュールのリユース・リサイクル事業を開始しており、次年度以降も情報PFを活用したビジネス展開を図るとされています(関連トピック)。
地方自治体との連携スキーム構築
鳥取県内でのリユースPVモジュールの促進を目的に鳥取県及び一般社団法人鳥取県産業資源循環協会と「使用済太陽光パネルのリユース促進に関する連携協定書」を締結しており、地域の資源循環型社会の形成を目指し他自治体とも協議中と報告されています(関連トピック)。
実証事業終了後の事業展開に係る出口戦略
本事業終了後の2024年度以降の事業展開、課題とアクション、スケジュールなどが報告されています。
使用済太陽光パネルの適正廃棄・リサイクルやリユースの促進に向けて法規制や施設導入などの議論が進む一方で、パネルを廃棄する排出者やリユースパネルを活用したい利用者が必要な情報にアクセスできないという課題(情報の非対称性)も指摘されています。
今回の実証事業で構築された情報プラットフォームを通じて、ユーザーがリユース太陽光パネルの情報にアクセスしやすくなり、またリユースパネルの品質や性能が保証されることが期待できると考えられます。
報告書でも指摘されているように、リユースパネル活用の促進には多くの事業者の参加や関連法規との整合性、リユース品のインセンティブなどの課題もあり、またリユース市場の形成に向けた経済性の評価も今後求められると考えられます。