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地域特性を考慮した分析事例~三重県でのケーススタディ②

(公開:2024-01-03)

前回のコラムでは地域で異なる太陽光発電の導入状況の事例として、三重県の導入状況を地理的特徴や処理施設立地によるCO2排出量の考察などのケーススタディとして紹介しました。

引き続き今回は、地域における太陽光パネルの将来の廃棄量推計や市場規模、必要な処理施設数や課題などを、分析事例として紹介していきます。

≪注意事項≫
下記で紹介する情報(分析方法、結果等)は、当WEBサイトによる独自の推計に基づきます。
これら情報について正確性や完全性を保証するものではなく、第三者による評価やチェックも行われていません。
以下に紹介する情報については、閲覧者ご自身の判断に於いてご利用いただくものとし、本情報に依拠したことによる⼀切の責任は当WEBサイトでは負うものではありません。

三重県のFIT認定による太陽光発電導入状況

資源エネルギー庁では、FIT導入状況として以下の二種類のデータをWEBサイトで公開しています。

前回のコラムでは地理的な導入状況を紹介しましたが、『事業計画認定情報 公表用ウェブサイト』のデータには20kW以上の設備について導入開始時期なども記載されており、本データを基に導入状況の推移を整理していきます。

※三ヶ月ごとに公表されている認定・導入状況は20kW未満を含む導入容量が確認できますが、割合としては小さく過積載の推計ができないため、20kW以上のデータを用いて推計しています。

過積載を加味した導入容量の推計

FIT認定情報に記載の『運転開始報告日』を集計し、全国の導入状況の推移を過積載も考慮した推計として、以前のコラムで紹介しています。

過積載を考慮した全国の太陽光発電導入状況(FIT認定情報等よりPVリサイクル.com®作成

同様に三重県内のFIT導入状況を同様に整理したものが下図となります。

過積載を考慮した三重県内の太陽光発電導入状況(FIT認定情報等よりPVリサイクル.com®作成)

年間250MW程度が新規に運転を開始し、2023年6月時点で約2.4GWが稼働しています。
発電容量だけでなく、実際のパネルを設置した容量(※1)では累計で約3.1GWとなり、0.7GW程度上振れしています。

全国の導入状況に比べて期ごとの増減が大きくなっており、大規模案件などの運転開始状況などが影響していることが想定されます。
これらの増減は、FIT終了後に太陽光パネルを撤去・廃棄する際にリサイクル処理の需要が一時的に逼迫するなどし、処理施設の受入れ状況によっては事業工程(撤去工事や更新工事)に影響が出る懸念も想定されます。

※1:FIT認定情報では“太陽電池の合計出力”として情報が公開されており、発電出力との差が太陽光パネルの過積載となります

過積載の事例~事業計画認定情報の抜粋(引用元:資源エネルギー庁
調達期間(FIT期間)が終了する発電容量

FIT認定情報には、FIT20年の満了時期が『調達期間終了年月』として情報が公開されています。

調達期間が終了する全国の発電容量(FIT認定情報よりPVリサイクル.com®作成

同様に、三重県内の調達期間の終了時期を集計したものが下図となります。

三重県内の調達期間が終了する発電容量(FIT認定情報よりPVリサイクル.com®作成)

2033年ごろから徐々にFIT満了を迎え、その後10年に渡って随時FIT期間が終了していますが、理由は不明なものの終了時期が2040年に集中しています。
特に三重県内では全国と比べて集中度合いが高くなっており、詳細の確認は必要ですが地域ごとの特徴が顕著に表れている事例と云えます。

事業継続シナリオを考慮した排出量の推計

FIT終了後に全ての発電設備がすぐに撤去・廃棄される訳ではなく関連トピック、発電事業が継続することを考慮すると排出ピークは抑えられ、かつピークが時期が遅くなることが想定されます。

下図は、FIT後の排出ペースを幾つかのシナリオで仮定した場合の排出容量を示します。

排出量分布を仮定した場合の太陽光パネルの排出量推計(PVリサイクル.com®作成)

将来の排出量を推計するに際しては、FIT終了後の発電事業の継続・更新や撤去の予測精度の精緻化が重要なファクターだと云えます。

三重県内の廃棄・リサイクルの市場規模の推計

廃棄等費用積立制度により、FIT期間の後半10年間において発電量に応じて将来の廃棄費用を積立てられます。
全国の市場規模の推計として以前のコラムでも紹介しており、同様の手法で三重県内における市場規模(廃棄費用積立額)を試算したものが下図となります。

三重県内の廃棄等費用積立額推計(FIT認定情報等よりPVリサイクル.com®作成)

2040年のFIT終了時期で金額が大きくなっていますが、それ以外の年では2033年以降では年間30~40億円程度が積立てられ、累計で350億~400億円規模の積立額と推計されます。
三重県に限った話ではありませんが、2030年代まではリサイクル需要はほぼ存在せず、2030年代の前半に急激にかつ限られた期間となっています。

FIT後の事業継続により積立廃棄費用は徐々に市場に出てくるものの、リサイクル事業の事業性を検討する上で非常に大きなリスク(不確実性)となると考えられます。

県内に必要な処理施設の試算

上記で試算した排出量をベースに、県内で将来に必要な処理施設数を検討します。
なお排出ケースとして“case-2”の場合とし、以下の条件に基づき計算しています。

処理施設数推計の計算条件

下図が排出量を基にした処理施設数の必要数であり、2042年のピーク時に県内でリサイクル施設が12ヶ所必要と試算することができます。

三重県内の必要なリサイクル処理施設数(FIT認定情報等よりPVリサイクル.com®作成)

しかしながら排出量に合わせて処理施設が都合よく設置される訳ではなく、大量排出を見越して先行で導入する事業者や、導入後に設備償却のために余剰施設が残ると想定されます。

排出ピーク前後の処理施設数の例

個々の事業者が経済合理性を追求することで全体の誤謬が生じる可能性があり、結果として事業者の収益性悪化や処理施設の過不足が生じる可能性があります。

まとめ

太陽光発電の導入は地域ごとに特徴的であり、地理的な違いだけでなく時間軸での導入状況などにも違いがあります。
今回のコラムでは三重県をケーススタディとして、地域(県内)の導入状況の推移を把握し、将来の排出量の推計や市場規模、将来必要となるリサイクル施設の必要数と想定される課題を紹介しました。

2030年代に太陽光パネルの廃棄量が『年間17~28万トン』という数字が云われるものの、それぞれの地域で実際に事業や政策を計画するには、地域に特徴をデータに基づいた詳細な分析が必要です。

太陽光パネルの廃棄・リサイクルに関して、リサイクルシステムの構築や法制化に並行して、地域のリサイクル市場としての研究や分析が進むことが望まれます。

参考資料