(公開日:2023-01-13)
2012年に開始した固定買取価格制度(FIT)により急増した太陽光発電設備は、FIT期間が終了する20年後に順次撤去・廃棄が始まることが想定されており、各種メディアでも取り上げられる機会が増え、将来の『大量廃棄』の課題が広く社会全般に認知されてきている様に感じられます。
将来の排出量推計に関して環境省やNEDOなどが推計値を公表していますが、公表された時期から既に時間が経過しており、また推計に用いられた市場予測や前提条件の信頼性などのアップデートはされていない様にも思われます。
今回のコラムでは、各種の公開されているデータに基づき、太陽光パネルの廃棄量に基になる導入容量に関する独自の推計および検討結果を紹介したいと思います。
≪注意事項≫
下記で紹介する情報(分析方法、結果等)は、当WEBサイトによる独自の推計に基づきます。
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太陽光発電設備の大量廃棄問題は、2012年に『再生可能エネルギーの固定価格買取制度(以下FIT)』として全量買取制に制度変更されたことにより、全国でメガソーラーが急増したことに端を発します。
当初は再エネ普及に軸足が置かれたこともあり、一般には廃棄問題への関心は少なかったと考えられますが、環境省では既に2015年に『太陽光発電設備等のリユース・リサイクル・適正処分の推進に向けた検討』が実施されていました。
本検討結果では、設置された太陽光パネルがFIT経過後(寿命20年、25年、30年)に一律排出されるという単純な推計ですが、『年間80万トン』の廃棄パネル排出が見込まれていました。
その後NEDOによる『太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクト』において、各種の条件を加味した複数のケースの検討がされており、2035年ごろのピーク時で『年間17~28万トン』の排出予測がされています。
現在多くのメディア・報道やSNSでこれら数値を見る機会がありますが、前提状況や分析の精度などに言及は多くはありません。
(なお年間80万トンは既に古い推計値であり、報道の信頼性や記者の理解度を判断する一つと考えられます)
(関連コラム)
最新のFIT認定・導入状況は資源エネルギー庁のWEBサイトに公表されており、個別のFIT
申請案件に関しても同様にWEBサイトで確認することができます。
・再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法 情報公表用ウェブサイト
太陽光発電の導入量合計:6,660万kW(新規認定分6,160kW、移行認定分499万kW)
太陽光発電の新規認定量:7,723万kW(未稼働分1,562万kW)
(※2022年6月時点、四捨五入のため合計は一致しない)
四半期ごとの認定量・導入量をチャート化したものが、下図となります。
FIT申請(認定)は、制度が始まった直後の2013年~2014年にかけて急増していますが、実際の導入(発電開始)は2015年前半をピークとして、年間5~6GWで導入が進んでいる様です。
制度開始直後の売電価格が高い時点での駈込み申請で急増していますが、実際の発電所稼働は当初想定されたような顕著なピークではないとも考えられます。
(ただし初期の高いFIT価格での案件が順次稼働しているため、再エネ賦課金は高止まりしていたとも考えられます)
FITによる太陽光発電の導入(稼働開始)に当初想定したほどのピークではないことを確認しましたが、発電出力(導入容量)のため環境省やNEDOによる排出量推計(パネル質量)との比較ができません。
環境省報告書では導入容量とパネル質量の換算方法の説明は確認できませんが、NEDOの推計ではIRENA(International Renewable Energy Agency、国際再生可能エネルギー機関)の質量ー出力比の実績値及び理論値を指数近似した数値を採用したとあります。
また、発電出力を重量換算するための出力重量比率は、IRENA(2016)と同様のものを使用し、導入年次ごとの出力重量比の実績値及び理論値をプロットし、指数近似による回帰式を算出した(1990 年で約140t/MW、2050 年で約40t/MW)。
引用元:NEDO
上記に該当するIRENAの資料(チャート)は下図と考えられます。
同様の手法を用いて、各年に導入された太陽光パネルの質量を近似式で求めます。
※パネル質量 = 8.60533×1019 × e(-0.020607×導入年) (※決定係数:0.9636)
FITの導入量実績と太陽光パネルの質量ー出力比の推計より、FITに基づく太陽光パネルの導入量(質量ベース)は、下図の様に推計できます。
2014年~2015年にかけて年間70万~80万トンが導入されたと推計され、環境省の当初の推計に近い値となっています。
一方でピーク時と2010年代後半の差は当初指摘されていたよりも少なく、将来これら廃棄パネルの撤去・廃棄時期の排出シナリオ次第で、排出量の平準化が可能とも考えられます。
前項では資源エネルギー庁が公開しているFIT認定情報も元に、太陽光発電設備の導入量を検討しました。
太陽光パネルに関連するその他の統計情報も確認してみます。
経済産業省では月次で生産動態統計として、各種工業製品等の市場動向を調査・集計し公開しています。
太陽光パネルについても『セル・モジュール統計』として公開されており、生産・出荷(販売)金額、生産・在庫・出荷(販売)容量(kWベース)を確認することができます。
四半期で販売容量(出荷容量)をまとめたものが、下図となります。
2013~2014年にかけて出荷容量がピークとなっており、年換算で5GW程度となります。
しかし2022年までの累計出荷容量で30GW超となっており、FITによる導入実績と大きく乖離しています。
長期的なトレンドは確認できますが、統計の対象が市場全体を網羅しているとは考えにくく、将来の廃棄量推計には適用できないと云えます。
太陽光発電協会(JPEA)では、独自に集計した太陽電池の出荷統計として、『日本における太陽電池出荷量』と『日本企業における太陽電池出荷量』が公開されています。
四半期で国内出荷量(容量)をまとめたものが、下図となります。
2022年9月時点で累計出荷量が約67GWであり、FIT導入容量と概ね同じ水準となっています。
国内出荷量のピークが2014年となっており、FIT導入のピークが2015年前半だったのに比べて若干早くなっていますが、出荷時点の統計と工事完了後発電開始までのタイムラグだと考えられます。
また2017年以降四半期1200~1300MW(年換算で約5GW)で推移しており、一定量の太陽光発電設置工事が進んでいると推察されます。
日本電機工業会(JEMA)では、太陽光発電用のパワーコンディショナ(パワコンまたはPCS)の出荷動向を半期ベースで公開しています。
2022年上期時点で累計70GW超となっており、出荷のピークは2014年で年間10GW超となっています。
これら各団体の統計が示すように、統計の調査対象により推定される発電容量は異なることから、複数の統計・データから総合的に判断する必要があります。
発電が開始された太陽光発電所などは各地域の送配電網へ接続されますが、各地域の送配電事業者では太陽光発電の接続済容量を公開しています。
全国で6,801万kW(68GW、2022年10月時点)であり、前述のFIT導入状況とほぼ一致しているのが確認できます。
ただし過去のデータを公開していない送配電事業者があるなど、導入量の推移を確認することはできません。
上記ではFIT制度による太陽光発電設備の導入状況を見てきましたが、近年増えている自家消費型太陽光発電システムやPPAモデルなど、FITに頼らない太陽光発電所も増えてきています。
2021年度で自家消費は1,260MW(市場規模2,816億円)と推計されており、現時点では全体への影響は僅かと云えます。
今後は自家消費市場が4,460MW(市場規模5,857億円)、再エネ電力を需要家が直接購入するPPAスキームが2030年で700億円に成長するとも予測されています。
FIT以外の太陽光発電設備の導入状況が広く公開されることが求められます。
現在多くの太陽光発電所では、発電設備の定格容量を超える太陽光パネルが設置されています。
環境省やNEDOの報告書では過積載に関して明示されておらず、実際の排出量が過小評価されている可能性もあります。
将来の廃棄パネルの大量排出において過積載に関して議論されている事例もなく、ここでは過積載を考慮した排出量を検討していきます。
太陽光発電における過積載とは、パワコン容量を超えるパネル容量を設置することです。
※例:容量1,000kWのパワコン(=発電出力1,000kW)に、太陽光パネル1,200kW分を設置
晴天時など太陽光パネルの最大出力時にはパワコン容量以上に発電した電力はカットされますが、悪天候や朝夕の日射が弱い時間帯などで発電量を増やすことができ、結果的に収益を増やすことができます。
現在は太陽光パネルの過積載が主流になっており、その過積載率も増加している傾向にあります。
なお土地の制約が少ない海外では、『一軸追尾型(Single-Axis tracking)』が多く採用されており、朝夕を含む一日を通じた発電量増加と平準化がされています。
太陽光発電での過積載は発電所の設備利用率や設置コストにも影響するため、経済産業省の『調達価格等算定委員会』でも議論の遡上に上がっています。
なお個別の認定案件ごとに発電出力とパネル合計出力が記載されており、過積載率(過積載容量)を確認することもできます。
個別の認定案件に関して、資源エネルギー庁のWEBサイトで公開されています。
・事業計画認定情報 公表用ウェブサイト(2022年9月30日時点)
※20kW未満の事業計画認定については記載無し
公開情報を元に、発電容量と実際のパネル容量を集計した結果が下図となります。
なお一部データに明らかな間違いがあると考えられる為、以下条件で集計しています。
20kW以上のFIT認定された太陽光発電の累積導入量は2022年9月時点で約50GWと推計されますが、過積載を考慮すると約62GWとなり25%程度の増加となります。
(注:20kW未満のFIT認定情報は詳細が公開されていないため、前述の累積導入量より少なくなっています)
過積載容量は年を追うごとに増加しており、将来のパネル廃棄量の試算においても無視できないボリュームになることが懸念されます。
FIT20年が経過した2030年代以降に太陽光パネルの大量廃棄が懸念されており、行政や関連業界だけでなく広く社会の中で課題として認識されてきています。
将来の廃棄量を予測することは、適正な処理・リサイクルを進める上で自治体行政や企業の事業計画や投資判断、技術開発にも大きく影響します。
一方では廃棄量の推定根拠となる発電導入容量はFIT認定情報として公開されているものの、自家消費の増加や過積載の影響など、市場推計を行うための考え方やデータの精査が必要だと考えられます。
過去に環境省やNEDOなどで将来の廃棄量予測が公開されていますが、最新の太陽光発電導入状況から逐次廃棄量予測のアップデートとともに、正確でアクセスのしやすい情報公開が求められます。
なお今回は太陽光発電の導入容量についてオルタナティブな考察をしましたが、引き続き20年後の撤去・廃棄量の考察を紹介していきます。