(公開:2021-07-27)
(更新:2026-04-14)
太陽光パネルのリサイクルにおいて、構成材料をいかに再資源化できるかが重要となります。広く普及している結晶シリコン系太陽光パネルでは、有用資源として『銀』が使用されており、リサイクルの過程において回収されています(関連トピック)。
一方で太陽光パネルのリサイクルの現場では、銀の含有量が減少しており回収効率が課題だとも囁かれています。
今回は太陽光パネルに使用される『銀』に関して、少し深掘りをしていきます。
結晶シリコン系太陽電池モジュールのセルは、P型シリコン層とN型シリコン層が接合されています。光を受けることで起電力が生じ、受光面と背面のそれぞれの表面に電極が構成されています。
受光面はより多くの光を受けるために、電極はより細くする必要があります。そのため表面に縞状の『フィンガー電極』が構成されており、このフィンガー電極に『銀ペースト』が使用されています。
銀ペーストはスクリーン印刷により表面に塗布された後、乾燥・焼成することでペーストの樹脂分を揮発させ、フィンガー電極が構成されます。
発電セルに使用される銀の量は、バックコンタクト型などのセル構造やスクリーン印刷技術などにより異なります。

The Silver Instituteによれば、太陽光発電産業全体での銀消費量は2025年予測で6,087トン(19,570万トロイオンス)と依然高水準であり、銀市場全体(35,716トン)の中で大きな割合を占めています。
中国では2024年に新規PV導入容量が過去最高の278GW、世界全体での新規導入容量も約600GWに迫るものの、一方でモジュール価格の急落や在庫圧縮を優先する動きから、中国のモジュール・セル生産の伸びは鈍化しています。

2023年ごろからP型セル(PERC)からN型セル(TOPConやHJT)への移行が進んみ銀の需要が増加しています。これらの新型のセルは銀の使用量が多いことが特徴ですが、価格競争の激化を背景に銀使用量削減(thrifting)と代替材料への置換が急速に進んでいます。
特に、LECO技術(レーザー強化コンタクト最適化)や印刷装置の高精度化によるフィンガー幅の細線化、セル構造(バスバーの構造)の進化、HJTセル向けに銀被覆銅粉を用いた低温銀ペーストの採用拡大が重なり、単位当たりの銀使用量は2024年だけでで20%超削減されています。


ここ数年は銀需要が供給を上回る状態が続いているものの、需給ひっ迫度合は縮小傾向にあります。
一方で、AI関連需要への期待や地政学リスク、米国の利下げ観測などから、貴金属価格全般が押し上げられている状態です。

近年、太陽光パネルからの銀のリサイクルに関心が集まるものの、現時点では回収量は限定的であり、パネルリサイクル自体の採算性も低いことから、状況を変えるには技術的ブレークスルーが必要とされています。
太陽光パネルに含まれる銀の含有量はセルの種類や生産技術により違いがあり、そのデータなども一般には公表されていません。
環境省により太陽電池モジュールの含有試験結果で一部データが公表されていますが(関連トピック)、このデータは部位ごとの含有量であり、サンプル数も少ないため全体像を掴むことができません。
ドイツ機械工業連盟(以下VDMA)が発行している年次報告書『太陽光発電の国際技術ロードマップ(以下ITRPV)』には、Si系太陽電池のセルやモジュールの動向が説明されています。
現在Si系太陽電池セルで主流のPERCからTOPConやHJT(SHJ)へと移っており、将来的にはバックコンタクト型やタンデム型なども増えていくと予想されています。


VDMAの報告書によれば、2023年時点でのセル出力当たりの銀消費量(mg/W)の平均値は、PERCの9.6mg/Wに比べて、TOPConは15mg/W、HJT(SHJ)では19mg/Wと消費量が多くなっています。
将来的にはPERCで6mg/W、TOPConおよびHJTで9mg/W程度まで減少すると予測されていますが、今後PERCの市場シェア減少を考慮すると、将来的にも銀のニーズは高いと考えられます。

また豪New South Wales大学の研究グループでは、2020年時点でのを銀消費量は以下の様に推計しています。

なお過去の太陽光パネルの銀消費量に関しては、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)のレポートで説明されています。
FITが開始した2010年代前半に比べて、銀の含有量(セル出力当たり銀消費量)が著しく減少しています。

太陽光パネル1枚が20kg、発電出力250Wの場合、銀の消費量が0.2 g/Wpとすると、
(0.2×250)÷20=※2.5 g/kg
となり、パネル質量の約0.25%を占めることになります。
世界的には今後もシリコン系太陽光パネルが太陽光発電の主流と見込まれる中、中国に生産シェアが集中していることから資源や経済安全保障での懸念が最近指摘されています。
その中で、Si系太陽電池セルに使用される『銀』のサプライチェーンにおいて、銀ペーストの原料となる銀粉生産プロセスで日本は高いシェアを有していると、独・蘭の研究グループによる研究結果があります。


2021年以降に太陽電池モジュール生産量が急増したことから現在も高いシェアを有しているのかは不明ですが、太陽光パネルの銀(リサイクル)の動向は日本企業においても重要なことが示唆されます。
セル出力当たりの銀使用量は学習効果により低下傾向にはあるものの、より多くの銀を使用するN型セル(TOPConやHJT)への移行や世界的な太陽光発電の需要の高まりなど、今後も銀の消費量は高いことが予測されています。
The Silver Instituteは2020年のレポートにおいて、将来の太陽電池セルでの銀需要の見通しを8,000万トロイオンス(約2,500トン)程度としていましたが、2023年時点で既に倍以上の消費量となっています。
IEAによる将来の銀需要の見通しでも2030年に3,500トン程度となっており、過去の予測以上の銀需要となっています。


太陽光パネルの製造方法や採用する技術レベルや生産量などにより異なり、生産コストに占める銀の割合を一概に説明は難しいものの、質量比で1%に満たない銀が材料コストで大きな割合を占めるとされています。


また太陽電池セルの銀の消費量が減少する一方で、出力当たりの銀価格は2015年ごろから変わっていないという情報もあります。
太陽電池モジュールの価格は低下を続ける中で、製造コストに占める銀の割合が大きくなっている可能性が考えられます。

結晶シリコン系太陽光パネルに含まれる『銀』に関して、消費量や過去の推移と今後の見通しを概観しました。
使用済太陽光パネルのバックシート・セルから銀を回収することで、太陽光パネルのリサイクルの実現と資源の有効活用が期待されるものの、太陽光パネルの銀含有量の減少は回収プロセスでのコスト増につながることも考えられます。
一方で、銀の需給バランスや価格が見通しにくいものとなっており、将来の不確実性に左右される可能性が否定できません。
太陽光パネルのリサイクルにおいては分離技術やガラスの再生利用に焦点が当たっていますが、効率的な銀の回収技術・プロセスにも注目する必要があります。