環境省は、令和6年度に実施した委託事業『令和6年度使用済再生可能エネルギー発電設備のリサイクル等の推進に係る調査・検討業務』の報告書を公開しています。
本調査は令和3年度から継続して実施されており、引き続き令和6年度も使用済太陽光パネルの廃棄・リサイクルの実態に関するアンケート調査が行い、最新の動向や課題が整理されています。
本トピックでは、本報告書の概要や使用済太陽光パネルの排出実態のトレンドなどを紹介します。
※過去の報告書に関するトピックはこちらから ⇒ 令和3年度、令和4年度、令和5年度
2012年のFIT制度導入以降、太陽光発電を中心に再エネの導入が拡大しており、政府は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、太陽光発電の主力電源化を推進しています。
一方で、将来的な使用済太陽光パネルの大量廃棄、防災上の課題、環境や景観への影響などの懸念も顕在化しています。これを受け、環境省と経済産業省では太陽光発電設備のリサイクル制度の構築に向けた検討会が令和6年9月から開催され、「太陽光発電設備のリサイクル制度のあり方について」が公表されています。
本調査業務では、義務的リサイクル制度も含めた新たな仕組み構築に向けた議論・検討が深められるように、使用済再生可能エネルギー発電設備のリユース・リサイクルに関する実態把握や、リサイクル推進に向けた課題・対応策の整理が行われています。
なお過去にも同様の調査が実施されていますが、検討会での議論や最新の情勢を踏まえ、調査内容の一部に変更が見られます。
本調査では、解体・撤去業者を対象とした「排出実態調査」、産業廃棄物中間処理業者・リユース業者への「処理実態調査」、および最終処分業者への「埋立実態調査」の3種類のアンケート調査が実施されています。
排出実態調査では、令和5年度と同様に公益社団法人全国解体工事業団体連合会の加盟企業を対象にWebアンケート調査が実施され、80社から有効回答が得られています。
過去2年間で太陽電池モジュールの解体・撤去を実施、または相談を受けた事業者は、回答事業者の約 45%となっており、令和5年度の46%と同程度となっています。
解体・撤去工事の依頼元や取外しの事由は「個人等の発電事業者が家屋解体に伴う撤去」が最も多く、昨年度と同様の傾向が見られます。
FITなどによる事業用発電所の解体・撤去のニーズは依然として少なく、実際の処理業者からも「持ち込まれる太陽光パネルの種類が多い」といった現場の肌感覚とも合致しています。
大量廃棄はまだ10年以上先と見込まれるものの、現時点で課題として効率的な収集運搬の仕組みづくりに向けた議論が求められます。
また解体・撤去工事を行う際、型番などの製品情報の情報提供はあるものの、有害物質の含有情報に関する情報は提供されていない実態が報告されています。
アンケート結果からは、太陽光パネルの含有物質が一般消費者では入手できない状況が示唆されており、政府の検討会でもリサイクルの制度化における重要な論点としての「情報」の入手・取扱いが引き続き課題になると考えられます。
その他にも以下のアンケートが実施されています。
本調査では、前年度同様に太陽電池モジュールの受入れを行う中間処理業者やリユース事業者を対象に、リユース・リサイクル量やフローの実態、事業に関する課題に関するアンケート調査が実施されています。
令和6年度調査では計102社(前年度は89社)を対象にアンケート調査票が送付され、45社(44.1%)から回答が得られています。
アンケート結果に基づき排出要因別および回収後のマテリアルフローが整理されており、回収量は3,021トン(パネル換算で15.6万枚)となっています。
排出要因としては「不良品:37.3%」、「災害等起因:18.5%」が大きな割合を占める一方、「新古品:16.8%」や「目的終了:12.6%」などリユースとして活用できる可能性が高いものも3割弱を占めています。
回収された太陽電池モジュールのうち、リユースが288トン(9.5%)、中間処理が2,733トン(90.5%)、そのうち71トン(2.4%)が最終処分となっています。
令和6年度のアンケート調査結果では、使用済太陽光パネルの処理状況として「リユースが1割、リサイクル(熱回収含む)が9割弱、最終処分は3%以下」となります。
また前年度までのアンケート調査結果から排出量の推移を整理すると、リユースの比率がやや減少しており、最終処分(埋立)も減少傾向が見られます。
アンケートの母集団や回答企業にバラつきがあるため単純な比較はできませんが、こうした傾向の背景や要因をさらに分析する調査が期待されます。
なお、太陽電池モジュールのリサイクルにおける課題については、令和6年度調査でも自由回答の形式で行われており、「金銭面(費用面)」、「制度面」、「情報面」で意見が得られています。
費用面では、処理設備の導入コストやガラスなどの再資源化に関する中間処理事業側の事業性の課題に加え、単純破砕・埋立処分との価格競争、処理費用負担など排出事業者側の意識が挙げられています。
制度面では、前年度に指摘されていた補助制度や事業者の不足に加え、令和6年度調査では越県収集や保管基準、リサイクルの定義など、より実務的な課題への言及が見られます。
また、太陽電池モジュールの含有物質の情報開示は従来から課題とされてきましたが、リサイクル方法の周知や情報共有の仕組みづくりなど、実際の運用改善に向けた意見も情報面の課題として挙げられています。
最終処分(埋立処分)に関する実態調査結果も同様に行われており、令和5年度調査で協力のあった44社のうち、今年度もアンケート調査への協力した35社が対象に以下の調査が行われています。
調査結果と傾向は前年度と同様であり、使用済太陽電池モジュールの受入れにおける課題(受入れ拒否)として「有害物質の溶出」や「含有物質が不明」などの意見が引き続き指摘されています。
リユース太陽電池モジュールの国内での普及促進に関する調査として、処理実態調査やリユース事業者へのヒアリングも実施され、国内リユースの実態や流通促進に向けた課題の整理、不適正リユース防止に向けた方策が取りまとめられています。
リユース促進に向けた課題として、リユース事業者からは以下のような指摘が挙げられています。
リユースパネルそのものの価格やインセンティブなどの経済的メリットの乏しさ、未発達な市場構造に加え、品質や保証に関する制度が整備されていないなど、政府の検討会などで従前から指摘されてきた課題が依然残されています。
本章では、太陽電池モジュールの国内リサイクルの普及促進に向けた実態や課題について、以下の内容が整理されています。
本項では、太陽電池モジュールの「高度リサイクル」の定義が提案されており、各種処理技術の特徴が整理されています。
太陽電池モジュールの高度リサイクルを「アルミ・ガラス・その他に選別する方法」と定義されており、太陽電池モジュール専用でない破砕処理であってもガラスを分離回収できる場合は含まれるとされています。
また、高度リサイクル装置として導入されている代表的な処理技術について、各社処理設備の特徴がまとめられています(関連トピック)。
FIT開始以降に主流だったシリコン系太陽電池モジュール(60セル、片面ガラス)に適応した設計となっており、今後は処理量の増加やパネルの大型化・両面ガラス化への対応が課題だと指摘されています。
処理実態調査では、分離回収された太陽電池モジュール由来のガラスを有償で取引きしている事業者は約60%であり、前年度結果から大きな傾向の変化は見られません。
逆有償取引になる要因としてガラスそのもの品質に加え、ガラスメーカーへの運搬費用の負担が挙げられており、地域内でのリサイクルガラス活用の必要性が示唆されます。
また、処理方法ごとの分離・選別したガラスの状態・特徴、板ガラスの水平リサイクルに向けた最近の取組みが紹介されています。
さらに、現在主な再資源化用途となっている路盤材やグラスウールについても、その課題や対応策が整理されています。
品質基準の制度化を求める意見の他にも、大量廃棄時を見据えたリサイクル材の需要創出や地域内での再資源化の必要性なども指摘されています。
(関連トピック:ガラスリサイクルの取組み事例、ガラスのマテリアルバランス)
ガラスを分離したバックシート・太陽電池セルから銀精錬・回収が行われていますが、将来的には銀の含有量の減少が予想されており(関連トピック)、太陽電池セルに使用されている「シリコン」のリサイクルが注目されています。
現時点で国内にシリコンリサイクルを手掛ける事業者は存在しないものの、欧州での事業化事例やNEDOによる国内の研究開発の取組みなどが紹介されています。
半導体用途などシリコン需要の観点から、太陽電池モジュール由来のシリコンにも資源価値はあると考えられる一方で、再資源化にはシリコン抽出コストやシリコンセル供給見通しの不確実性などの課題があり、技術開発に加えて動静脈連携の必要性が指摘されています。
バックシートやEVA樹脂として使用されるプラスチックは、太陽電池モジュール全体の重量比で20%弱を占めており、素材構成比としてはガラスに次いで2番目に大きな割合となります。
EVA樹脂を含むバックシートは精錬業者に引き渡されるのが一般的であり、太陽電池モジュール由来のプラスチックは銀や銅の精錬において熱回収されるため、プラスチック単体で分離・回収するというリサイクルは実施されていないと報告されています。
(熱分解による油化・回収に取組む事例もあり、今後の研究開発の進展が求められます)
大量排出期を今後迎えるにあたって、多くの事業者が事業機会と捉え処理設備の追加導入を検討していることが報告されています。
一方で、設備投資を進める上では、今後の排出量の推移や処理装置の開発動向、リサイクル制度の方向性が不透明であることから事業者が慎重にならざるを得ない状況も指摘されており、国として早期に方向性を示すことが求められるとされています。
本報告書では、太陽光発電設備のリサイクル制度構築に向けて開催された「中央環境審議会循環型社会部会太陽光
発電設備リサイクル制度小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会資源循環経済小委員会太陽
光発電設備リサイクルワーキンググループ 合同会議」の概要が紹介されています。
また、風力発電や中小水力発電、地熱発電など、その他使用済再生可能エネルギー発電設備の適正処理・リサイクル等の推進に関する調査結果が報告されています。
今回紹介した『令和6年度 使用済再生可能エネルギー発電設備のリサイクル等の推進に係る調査・検討報告書』では、前年度からの継続調査を踏まえつつ、リサイクルの実態や最新動向が整理・報告されています。
将来的な排出の推移量や制度面での不確実性、ガラスを中心としたリサイクル材の利活用などの課題が指摘されています。 単にリサイクル技術の開発だけではなく、リサイクル制度の設計や動静脈連携を通じたリサイクル材の需要創出が重要だと考えられます。
制度構築や事業検討を進める上で、調査そのものの定期的な実施やシステム化、処理費用や取引価格など市場の実態把握が、今後いっそう求められると考えられます。