(公開:2023-11-24)
(更新:2023-12-16)
一般的に普及するシリコン系太陽光パネルは約2/3がガラスで構成されており、太陽光パネルのリサイクルにおいて『ガラスのリサイクル』が特に重要となります。
最近になり国の検討会などでもガラスのリサイクルが課題として取り上げられるようになましたが、資源循環の観点から国内のガラス産業全体での位置づけを理解する必要があります。
本コラムでは国内のガラス製品全体のマテリアルバランスの実情を確認し、太陽光パネルのリサイクルガラスにおける課題を整理していきます。
≪注意事項≫
以下で紹介する資料は、集計方法や年次の違いにより、それぞれの数値に整合が取れていません。
本コラムでは、これら数字の整合性を議論するのではなく、ガラス製品全体のマテリアルバランスの現状を理解するのを目的としています。
国内で流通する主なガラス製品(板ガラス、ガラス繊維、ガラスびん等)のマテリアルバランスがまとめられたチャートを、環境省の資料から確認することができます。
なお本資料は2016年に作成(データは2013年)されたものであり直近の生産量とは異なりますが、ガラス製品全体のマテリアルバランスの概観を理解することができます。
2013年の生産規模として、板ガラス120万トン、ガラス繊維46万トン、ガラスびん129万トンとなっています。
将来の太陽光パネルの排出量ピーク時に17~28万トン(関連トピック)といわれており、廃棄される太陽光パネル由来のガラスが無視できない量だと考えられます。
また2013年時点での、各ガラス製品のリサイクル率(リサイクルカレット利用率)も、チャート内に記載されており、板ガラス36%、ガラス短繊維65%、ガラスびん75%となっています。
以下では、主要なガラス製品のリサイクルに関して詳細を確認していきます。
板ガラス生産のマテリアルバランスの資料が、3R推進協議会(AGC、旧旭硝子)により公表されています。
2004年時点の国内のガラス熔融量219万トンの内、バージン原料は142万トン(65%)でカレット利用が77万トン(35%)となっています。
しかしながら77万トンのほぼ全てが生産工程から発生したカレット等であり、市中から回収したカレットの使用量は僅か2万トンと、自動車や建築ガラスなど既に市場に流通しているガラスのリサイクルに課題があると云えます。
なお現時点では生産量等が多少異なるものの、リサイクルに関する状況にはほとんど変化無しとされています(ガラス再資源化協議会、令和4年度第23回定期総でのAGC発表資料より)。
AGCの資料によれば、リサイクルガラスカレットを使用することで、ガラス溶解工程での必要なエネルギーを削減できる効果があるとされています。
カレット回収や選別工程での追加的にCO2排出量が増加するものの、カレットの水平リサイクルで製造時のCO2削減が可能とされています。
一方で板ガラスのリサイクルは普及しておらず、技術的な課題や経済性のメリットがない等の要因があると想定されます。
板ガラス協会(経団連)の資料によれば、1990年代後半から2000年代におけるリサイクルガラスの使用実績の統計が公開されているものの同様の資料は近年公表されていない様であり、国の審議会や経団連の低炭素社会実行計画などにおいてもガラスのリサイクルに関する記述は見当たりません。
一部では大手ゼネコンによる建築廃材としてのガラスのリサイクルの取組みも発表されていますが、現時点では板ガラスメーカーは板ガラスのリサイクルに関しては消極的な姿勢だと見受けられます。
ガラス繊維に関しては業界団体による統計などは見当たりませんが、断熱材などに用いられるグラスウール(ガラス短繊維)は既に80%~90%という高いリサイクル率になっています(参考①、参考②)。
グラスファイバー(ガラス長繊維)に関しては、組成が一般のアルカリガラスではないことから、市中製品の板ガラスやガラスびん由来のリサイクルカレットが使用できないとあります(参考①)。
環境白書によれば、ガラスびんは2000年代半ばから高い水準で回収・再利用が進んでいます。
またガラスびんのリサイクル日本容器包装リサイクル協会は、再商品化製品の資料を毎年公表しています。
本資料によれば、回収したガラスびんの約7割は再度びん原料として水平リサイクルされており、残りについても土木資材やグラスウール原料としてリサイクルされています。
資源循環を考える上で、生産・消費工程である動脈側と廃棄・リサイクル工程の静脈側のマテリアルフローのバランスが重要となります。
経済産業省が工業生産品等に関して生産動態統計を公表しており、主だったガラス製品に関してチャート化したものが下図になります。
コロナ禍前後で大きな増減があるものの、ガラス製品の生産量は中長期的に減少傾向にあります。
生産量の減少は、将来的にリサイクル材料の需要減少にもつながることと想定されます。
注:前述のマテリアルバランスの数字とは異なる統計結果となっています。
マテリアルフローとして、主なガラス製品のリサイクルの動向および生産動態を確認してきましたが、中長期的なこれらの動向から以下のことが示唆されます。
国内ガラス産業では、将来的に大量に発生する『太陽光パネル≒ガラス』の受入れは難しいと考えられます
太陽光パネルが海外からの輸入品であり既に国内メーカーが撤退(国内での生産拠点が無い)した現状では、既存のガラス産業・製品に依存しない創造的なリサイクル方法が求められます。
最近になり国の検討会や業界内でも、『太陽光パネルのガラス』のリサイクル方法に関する議論が増えてきました。
一方で、ガラス製品の市場全体を俯瞰した議論はされておらず、技術的な実現性に加えて産業として成り立つかの検討が今後必要と考えられます。
今回のコラムでは、国内のガラスマテリアルのバランスを概観し、現状のガラス産業では太陽光パネル由来のガラス材を受け入れる余地は小さい事を紹介しました。
引き続き次回のコラムでは、実際に進んでいる太陽光パネルのガラスリサイクルの取組み事例を紹介していきます。