総務省は、太陽光発電設備等の適正導入が円滑に進むための仕組みや運用改善策を検討するため、市町村や経済産業省の対応状況を調査として「太陽光発電設備等の導入に関する調査」が実施されています。
本調査結果に基づき経済産業省に対して勧告が行われており、トラブルの未然防止に向けた現地調査の強化や法令違反の改善が見られない発電事業者への必要な措置の実施などが求められています。
2050年カーボンニュートラル実現および2030年の温室効果ガス排出量46%削減に向けて、国・自治体では再生可能エネルギーの導入を促進しています。
2012年のFIT制度開始以降、全国で太陽光発電設備等の導入が拡大された一方で、一部では地域住民への説明不足や、発電設備からの土砂流出などのトラブルが発生しています。
再エネ設備の適正な導入促進のためには、地域でのトラブル発生防止や住民の理解促進などの環境整備が喫緊の課題となっており、法改正等も含めた現場で必要な措置が求められます。
本調査は、地域との共生を図りつつ再エネ設備の適正な導入が円滑に進められるための仕組みや運用の改善策、その進捗を把握するための方法の検討を目的として実施されています。
経済産業省が開催する「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ」にて本調査結果は活用され、再エネ特措法(再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法)の改正されています。
2024年4月からは、発電事業者による地域住民への説明会開催、関係法令違反時の交付金の一時停止措置などが施行されることになり、地域と共生した再エネ導入に向けた事業規律強化を図るとされています。
なお総務省では、過去にも「太陽光発電設備の廃棄処分等に関する実態調査(2017年、2019年)」に基づき経済産業省及び環境省に勧告を実施しており、過去にも法改正やガイドライン策定等として反映されています。
基礎調査で回答を得られた861市町村のうち約4割に当たる355市町村において、太陽光発電設備に起因するトラブル等が発生しており、回答を得られた市町村全体の2割弱の市町村(143 市町村)で未解決のトラブルを抱えている結果となっています。
実地調査を実施した市町村(121市町村)でのトラブルは発電設備の開発工事段階と稼働段階のそれぞれで発生しています。
防災工事における手続き上の不備や、不十分な排水対策、盛土やのり面の土砂対策などが指摘されており、事業者の連絡先の不明や雑草・反射光などのトラブルも報告されています。
これまで再エネ特措法では、周辺地域への事前周知は事業計画の認定要件とされておらず、一部の市町村の条例で義務化されている場合などで地域住民への説明等を実施されています。
条例で義務化されている場合にはトラブル対策に効果があるという意見も報告されており、2023年6月の最エネ特措法改正では地域住民に対する事前周知(事業計画の説明会開催等)が認定要件となり、発電事業者は事業計画申請前に周辺地域への事前周知が必要となっています。
引用元:総務省
- 泥水・土砂等の流出や雑草の繁茂、騒音等に関するトラブル等が発生しており、 市町村が発電事業者等に対し、以下のような再発防止策の実施や当該再発防止策の地域住民に対する説明について助言等を行っている
- 条例で住民説明を義務化している市町村からは、条例制定後、 住民説明の未実施や設備設置後のトラブル等は、発生していない又は少ないと認識しているとの意見あり
- 説明を行った地域住民の範囲や説明の方法でトラブル等となった事例がある一方で、以下のように工夫している事例もみられた
トラブル等の未然防止や発生した場合の対応に資する住民説明のポイントは経済産業省(前述のWG等)に情報提供され、再エネ特措法の施行規則改正及び新たに策定された説明会等ガイドラインに反映されています。
太陽光発電設備等のトラブルに対して市町村で実施されている調査結果や改善策に関して、「事業計画申請時」と「発電設備設置後」のそれぞれの段階で報告されています。
「事業計画申請時」に関して、住民説明に関する報告書の提出を求めているケースがあり、説明内容と異なる場合に地域住民と情報が共有されていたことで解決が図られている事例も報告されています。
「発電設備設置後」として、条例に基づき設備の現地確認や地方の経済産業局に相談するなどの対応をするケースがあるものの、リソースの不足や設備の状況把握の効率性に課題があるとされています。
発電設備現地に設置されている標識の連絡先が更新されていない事例や、記載された事業者に適切に連絡できず対応に苦慮するケースも報告されています。
発電事業者は認定申請時に「再生可能エネルギー電子申請」サイトに連絡先を登録するものの、稼働後においても最新の連絡先の更新や変更手続きを徹底させる必要があると報告されています。
発電事業者の連絡先等の把握ができる手段として 、「事業計画認定情報公表用ウェブサイト 」や「再生可能エネルギー電子申請」サイト上で「認定設備情報等」があるものの、市町村側で十分に認識されておらずデータベースが有用に活用されていないことが見受けられます。
また「再生可能エネルギー事業の不適切案件に関する情報提供フォーム」などが市町村で認識されていないケースも多く、関係法令違反などの情報共有や通報できるシステムが十分に機能していないと報告されています。
経済産業局では、 まずは口頭指導を実施し改善が見られない場合や連絡が連絡がつかない場合には、経済産業省本省と協議の上で文書指導を実施するとしているが、その協議基準が明確でないと報告されています。
指導後の改善状況の確認や対応に関する記録の方法など、経済産業局で統一されていない状況が見られています。
総務省ではこれらの調査結果に基づき、経済産業省に対して以下の勧告および情報提供を実施しています。
【経済産業省への情報提供】
①事例を踏まえ、住民説明のポイント (説明すべき内容及び住民の範囲等)を経済産業省に情報提供
⇒ 経済産業省令の改正及び新たなガイドラインに反映【勧告】
②トラブル等の未然防止に向け経済産業省による現地調査を強化。
現地調査は、地方公共団体から通報のあった発電事業者の情報等を活用し効率的・効果的に実施③地方公共団体に対し、設備情報、情報提供フォーム等を周知
④法令違反等の状態が未改善の場合の経済産業局から経済産業省本省への協議基準等を整理し文書指導等を着実に実施し、改善されない場合は交付金の留保などの必要な措置を適確に実施
引用元:総務省
これらの勧告により、地域と共生した設備の導入・普及がが期待できるとされています。
なおこれらの勧告(情報提供)は、経済産業省によって開催されている「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ」にて議論されており、それに基づき再エネ特措法が改正されています。
改正された再エネ特措法(2024年4月施行)では、発電事業者による地域住民への説明会開催が認定要件になることや、関係法令違反時の交付金の一時停止の措置が可能になるなど、発電事業者の事業規律強化と地域に共生した再エネ設備の導入の実現に向けた取組みとして反映されています。
太陽光発電設備が全国で普及する中、一部地域では住民とのトラブル発生や環境への影響などの懸念が指摘されており、再エネ設備の導入に際して地域との共生が求められています。
この様な背景から、総務省にて再エネ設備導入に関する実態調査が実施され、トラブルの未然防止や不適切な案件への対策など実施する様、経済産業省に対して勧告(情報提供)が行われました。
今回の勧告に基づく「再エネ特措法」の改正により、地域住民への説明会義務化や法令違反時の措置などが強化されており、発電事業者の事業規律強化と地域に共生した再エネ設備の導入の実現に向けた取組みとして反映されています。
太陽光発電の長期電源化や適正リサイクルの実現に向けて国や自治体でも継続的な議論が進んでいますが、今後の環境構築に向けた進捗に注目する必要があります。