環境省は、『国内資源循環体制構築に向けた再エネ関連製品及びベース素材の全体最適化実証事業』において、令和7年度に実施された『太陽光パネルの長期使用・資源循環の促進及び有害物質管理を目的としたデジタル・プロダクト・パスポート(DPP)の運用効果の検証実証事業』に関する報告書が公開されています。
本実証事業は、稼働中の太陽光パネルを対象とした長期使用やリユース・リサイクルを拡大するビジネスモデルを構築することを目的として、令和5年度から計3年間での実施されたものです。
本トピックでは、本報告書の概要を抜粋して紹介します。
(※令和3/4年度報告書の概要はこちら)
FIT制度を契機として急速に普及が進んだ太陽光発電ですが、2030年代前半から使用済太陽光パネルの大量排出が始まる可能性があります。
一方で、太陽光パネルの長期使用やリユース、分離回収された資源の循環システムの確立は、世界的にも途上だとされています。
欧州では持続可能な製品のためのエコデザイン規則(Ecodesign for Sustainable Products Regulation)により、デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)を活用した情報伝達が進められています。
しかし、稼働中の太陽光パネルの長期使用・リユースやリサイクルの判断に必要な知見やデータが整備されていないと指摘されており、国内でもリユースやリサイクルが進まない懸念が指摘されています。
本実証事業では『長期使用・リユースの意思決定を行うための判断基準』や『リサイクル推進のためのデータの不足』などの課題に対して検討や実証が行われました。

令和7年度は、過去2年間の内容の進展と取りまとめ、および本事業終了後の事業展開の方針を検討されており、以下の内容が実施されています。
太陽光パネルのリサイクルを推進するためには、太陽光パネルの含有物質情報が適切に整備され、それら情報が関係者の間で適切に伝達される必要があると指摘されています。一方で、再エネ特措法で有害物質に関する情報(0.1wt%の含有有無)が公開されているものの、リサイクルの観点から部品別の含有物質濃度のに関する情報が整備されていません。
本実証事業では、国内に設置されている太陽光パネルの製造年・メーカー別の統計データの整理、太陽光パネルのサンプルを用いた部位ごとの成分分析や溶出試験(ヒ素、アンチモン含有量の関係)、リサイクル現場を想定したハンディ計測器による測定結果などが報告されています。
また、リユースPVパネルの流通に必要な情報管理・連携の実現を目的として、前年度から実施している二次元バーコード貼付による実証評価結果のとりまとめや、リユース検査や太陽光パネルの余寿命判定などの業務フローが提案されています。
前年度までの実証事業において、国内に設置されている太陽光パネルの出荷量および各年のメーカーシェアの経年変化が調査されており、2012年のFIT開始以降に出荷量動向が整理されています。
サンプルの入手に際しては出荷動向を基に年代やメーカーに偏りがない様に考慮されており、PV CYCLE JAPANのリサイクル事業者、太陽光発電事業者やインターネット販売事業者を通じて、3年間で計181枚の太陽光パネルのサンプルが入手されています。

太陽光パネルのガラスは重量の半分以上を占めることから、ガラスの安易な埋立処分を回避し資源として再利用のために、性状や成分に関する情報を把握する必要があります。
本事業では、3年間で計159サンプルを対象にガラス中の含有物質の分析が実施されています。

ガラス中に含まれる有害物質やリサイクル時の阻害物質として『ヒ素・アンチモン・鉛』を対象に、以下の分析結果が得られています。
【ヒ素(As)】
【アンチモン(Sb)】
【鉛(Pb)】


アンチモンとヒ素または鉛が検出されたサンプルを対象に、両元素間の含有量の関係について検討されています。
ガラス中のヒ素含有量によって傾向は異なることに注意が必要であるものの、ヒ素とアンチモンの含有量には負の相関関係がある可能性が示唆されています。
なお、アンチモンと鉛の含有量には、関係性は認められなかったとされています。

なお、サンプルは全量が典型的なソーダガラスであり、カドミウム(Cd)とセレン(Se)は未検出となっています。
処理業者等がリサイクル作業を行う現場において、ハンディ型分析器(ハンドヘルドXRF)による太陽光パネルのガラス中の含有物質の測定が可能か検証されています。
本実証では、ガラスの形状(破損の有無)や分析機種の違いによる検討結果が報告されています。
太陽光パネルの状態のままでのカバーガラスと粉砕ガラスとの測定結果の比較では、ヒ素含有量においてガラス形状によらずハンドヘルドXRF とICP-MSの分析結果が概ね一致しています。
一方で、アンチモンについてはハンドヘルドXRFによる分析値がICP-MSの結果より低くなっており、ガラス形状では粉砕ガラスの分析結果が過小評価となっています。
平滑な固体表面の方が粉体より再現性と直線性に優れるとされており、リサイクル処理前にパネルのまま測定する方がより適切だと指摘されています。

機種による違いの検証として、4機種5台のハンドヘルドXRFによる粉砕ガラス中のヒ素及びアンチモンの含有量分析が実施されています。
ヒ素の含有量については、ハンドヘルドXRFの機種にかかわらずICP-MSの結果と概ね一致しており、現在市場に流通する多くの機種で判別が可能だとされています。
一方で、アンチモンについては、機種ごとの分析結果の違いが大きく、特に含有量が多くなるほどICP-MSの分析値からの乖離が大きくなる傾向が見られます。
ハンドヘルドXRFは微量元素の検出を主目的としており、高濃度帯の精密測定を想定していないことから、アンチモンの計測時には補正を適用することで分析精度の向上が期待できるとされています。

令和6年度では4種類のサンプルを対象にヒ素・アンチモンの含有量と溶出量の関係が分析されており、溶出量は含有量と正の相関があり、かつガラス粒径が小さいほど溶出量が大きくなっていると報告されています。
本年度は、ガラスの粒径の違いによる溶出量の影響が評価されており、ヒ素の溶出量はガラス粒径が0.5mm未満の場合に0.5~2mm未満と比較して4.3倍になると分析されています。

以上の検討結果から、以下の考察が報告されています。
太陽光パネル部材の素材構成はメーカーから詳細が開示されていない一方で、デジタル・プロダクト・パスポートの観点から部材構成に関する情報は重要と考えられます。
本事業では収集した使用済み太陽光パネルの樹脂部分の分析が行われ、3年間で計164サンプルの測定が実施されています。
前年度の分析結果と同様の傾向が見られ、PET/フッ素樹脂の複合素材が40%、PET+フッ素コーティングが26%となっており、フッ素系の材料が約2/3を占める結果となっています。
年代を問わずフッ素系樹脂が使用されている一方、近年はフッ素部分の膜厚が薄いと考えられるフッ素コーティングが増えている傾向となっています。

セル上の電極に含まれる成分を把握するため、セルの大きさ、表面電極を構成するインターコネクタやフィンガー線の本数や断面積、およびインターコネクタの接合素材の成分分析など、3年間で計133サンプルの計測・分析が実施されています。
電極とインターコネクタの接合には鉛を含む部材(はんだ)が使用されており、85%のサンプル(113件)から検出されています。

セルに含まれる銀と銅の含有量について製造年別の分析結果がまとめられており、銀・銅の含有量は減少傾向が見られるとされています。

太陽光パネルの情報をステークホルダー間で連携するには、DPPの情報を保管・管理するデータベースに加えて、実際の太陽光パネルと紐づけた上で、これらの情報をデータベースへ入出力する必要があります。
本実証では、実際の発電所における貼付バーコードの実用性の確認、二次元バーコードによる太陽光パネルのDPP管理・運用の実証、および余寿命判定を含む業務フローが提案されています。


使用済太陽光パネルの検査技術は一般にはIV検査やEL検査、インピーダンス測定等が用いられており、「太陽電池モジュールの適切なリユース促進ガイドライン」でも示されています。これらの方法は、大型機器を使用し検査・測定時点での使用可能性は正確に判定できる一方、使用済太陽光パネルの材料劣化度合いを評価することが難しいとされています。
本実証事業では、太陽光パネルの長期使用可能性予測モデルとして『低照度I-V測定』と『DCオフセットCCP測定』が提案されており、使用済 太陽光パネルの余寿命判定をより簡便な方法で検査するアルゴリズムが検討されています。


今回検証が行われた2つの方法による余寿命を推定では、一定程度の信頼性や精度が確認され、屋内外を問わず最低限の装置・器具で余寿命の推定が可能だと報告されています。
発生枚数や型式が揃わずに利用されていない太陽光パネルのリユース促進を図る目的で、メーカー・型式の異なるリユースパネルを用いて太陽光発電所の設置・運転を通じて、リユース太陽光発電所における技術的課題の検証が行われています。

実際の運転で得られた発電量データを基に、ストリング間の開放電圧差を±10%以内に収めるようにパネルを組替え、対策前後での比較評価が実施されています。
その結果、組み替え実施後は発電効率が約10%向上していることが確認され、ストリング間の電圧特性の整合性確保など重要な技術的ポイン
トであることが明らかにされています。

使用済太陽光パネルのリユース・リサイクルの事業展開の検討を目的に、ガラスの再資源化に関して関連する事業者と意見交換が行われています。意見交換を通じて、リサイクル原料の適正利用や製品価値向上が期待できるとされておりた国への要望も提言されています。
また、令和5年度からの3年間の実証事業の内容を踏まえ、プラットフォーム運営事業の実装に向けた事業アイデア『リユース C-PPA(Corporate PPA)事業』が提案されています。
本事業で得られた結果を踏まえ、太陽光パネルのリサイクルに関連する業界関係者と意見交換が行われ、ガラスのリサイクルに関連した課題や要望などが記載されています。
実証事業で得られた結果と業界への聞き取り内容を踏まえ、リサイクル促進に係る事業の推進にあたり国へ期待する法制度等が提案されています。

本事業は令和5年度から3年間実施され、実施期間中の全体工程概要、事業を通じた得られた成果や波及効果が整理されています。

また、プラットフォーム運営事業の実装に向けた課題が整理されており、新たな事業アイデア『リユースC-PPA事業』が提案されています。

本実証で調査された太陽光パネルのガラスの含有物質の分析結果を基に、CO2排出量削減効果が推計されています。
使用済太陽光パネルの処理において『リサイクル75%、最終処分25%』、2035年時点での年間排出量を25万トンと仮定した場合、CO2排出量削減効果は『約3.9万t-CO2』と推計されています。
また、資源循環利用による最終処分量の削減効果は『約12.3万トン』と推計されています。

なお、実証事業の各年における単位当たりのCO2削減効果を比較すると、年度ごとに大きな差があります。
これは評価対象(バウンダリ)が異なることによるものであり、各年度の実証事業の成果によりCO2削減が期待できるとされています。

※関連トピック:太陽光パネルのリサイクルによるCO2排出量削減効果
3年間実施された本事業では、使用済太陽光パネルの長期使用、リユース・リサイクルの推進に向けて、DPPの動向調査や要件整理、太陽光パネルの情報管理・伝達システムの社会実装に向けた実証、太陽光パネルの含有物質の分析調査と簡易計測手法の開発、太陽光パネルの余寿命評価法の開発など、多岐にわたる内容が実施されました。
本事業で得られた成果を踏まえた太陽光パネルの撤去・廃棄における課題整理や事業モデルの提案されており、環境省が現在進めている太陽光パネルリサイクルシステムの構築(関連トピック)に向けた重要な位置づけになると考えられます。
今後の太陽光パネルリサイクルの推進に向けて、本実証事業で得られた成果や知見が有効に活用されることが期待されます。